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最終更新日:2019年1月18日(金)


かみかわ「食べものがたり」: 前野商店 「酒かすスイーツ」


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地元産「ゆきひかり」へのこだわりから生まれた和洋菓子
地酒「法螺吹」(ほらふき)と酒かすスイーツの開発に取り組んだ前野さん
前野商店 「酒かすスイーツ」 かみかわ南部 中富良野町
『特産の酒』を造ろうと動き出した一大プロジェクト

 「中富良野町には、お菓子屋がない。何か新しいスイーツが欲しい」という町民の強い要望を受け立ち上がったのが、中富良野町商工会の会長を務める前野仁志さん。平成21年夏のことでした。

 家業はこの町で100年近く続く酒屋の前野さん。実は29年ほど前にも、町を挙げての大プロジェクトに関わったことがありました。それは、町で生産される米「ゆきひかり」の消費拡大を目指し、「特産の酒」を造れないかという当時としてはユニークな計画。地元のJA、町役場、商工会が一丸となったプロジェクトでした。

 「ゆきひかりは健康をサポートしてくれる、人に優しい品種だと聞いた。これでお酒を造れば、きっと人に優しい、おいしい酒になると思ったんです」と前野さんは振り返ります。減農薬で契約栽培した米を、麹だけで仕込む純米酒。醸造は、旭川の高砂酒造に委託。平成3年から準備を進め、翌年に委託製造をスタート。プライベートブランドとしては当時道内一の生産量となる、1升瓶換算で1万本を造りました。

画像酒かす饅頭商品パッケージ 中富良野町の銘菓として商品化された「酒かす饅頭」は、パッケージにもこだわりました
酒かす饅頭(8個入)1,080円(税込)

 

ユニークなネーミングも受け、一部は道外にも出荷

 面白いのが、酒の名称。町民の声を活かそうと公募を行ったところ、20数種類の名称が寄せられました。それを、町役場の職員、商工会のメンバーらで投票を行い、絞り込んでゆく作業に入りました。ところがたった1票しか入らなかったにもかかわらず、なんと前野さんが推薦した「法螺吹」(ほらふき)に決定。家業が酒屋ということもあり、子供のころから、大人が酒を飲む姿を見ていましたが、「酒を飲むと、大人たちは“ほらを吹く”」と感じていました。

 しかし、前野さんがあえて「法螺吹」と名付けたのは、仏教用語辞典を見ていたとき、「法螺吹」という言葉には「気合を入れる」「元気を出す」という意味が込められていることが分かったから。「町に気合を入れ、元気を出してもらう。町特産の新しい酒には、ぴったりのネーミングだと思った」と前野さん。これには、職員やメンバーも納得。出来立ての新酒を売り出したところ、ユニークな名称も受け、全道ほか、一部道外にも出荷されるようになりました。

画像ほらふきケーキとほらふき饅頭
中富良野町限定の「ほらふきケーキ」「ほらふき饅頭」「酒かすクッキー」が並ぶ店内

 

新しいスイーツ作りにも生かされた、酒造りの経験

 酒を造れば当然のこと、酒かすが出ます。この酒かすで何か作れないかという構想はその当時から持っていました。新しいスイーツを作ろうという話が出てきたときに真っ先に思い浮かんだのが、酒かすを使ったスイーツでした。しかも、「法螺吹」の酒かすを使った地元ならではの産品に仕上げたいと考えたのです。ただ、町にお菓子屋さんがありません。どうやって菓子を製造するのか、最初の難題にぶつかりました。

 前野さんは若いころ、富良野の青年会議所で活動していました。そのとき同じ年で仲が良かったのが、富良野の菓子製造の老舗・菓子司 新谷の先代社長でした。すでに店舗を他の業者に譲り、現在は隠居の身。新谷元社長と話し合う中で、酒かす入りのまんじゅうを製造する計画が浮上しました。菓子司新谷といえば、いまでも「へそのおまんぢう」が有名。このまんじゅう製造のノウハウを、酒かす入りのまんじゅうに活かすことで、多くの人に好まれる、本格的なまんじゅうができると、自信を深めました。

画像商店看板、工房風景 まんじゅうは富良野市の駅近くにある工房スキップで1つ1つ丁寧に焼き上げられ「法螺吹」の刻印を入れて完成。

 

JC時代に親交のあった老舗菓子メーカーの元社長も参戦

 ちょうどそのとき、「法螺吹」の製造販売元となっている中富良野産米酒造振興会から、スイーツの商品開発費として20万円の補助が受けられることが決まりました。商品開発は一気に進みます。

 一般的なまんじゅうは蒸かしたものが多いのですが、新谷元社長のアドバイスもあり、焼いたまんじゅうに仕上げることになりました。焼く機械は「工房スキップ」のものを利用することに。富良野駅近くにある、新谷元社長が運営に関わっている社会福祉法人の作業場です。こうして、ようやく試作品作りに取り掛かることができました。

 しかし肝心の酒かすがありません。酒は冬場に仕込み、その後、絞りの作業に入るため、早くても年明けにしか「法螺吹」の酒かすは手に入らないのです。苦肉の策で他の酒の酒かすを手に入れ、試作を繰り返しました。まんじゅうの皮には、小麦粉ともち米粉に酒かすを混ぜ合わせたものを使用。通常の焼きまんじゅうより皮を約1mm厚くし、酒かすの風味を生かすことになりました。あんはへそのおまんじゅうで使われているものより、甘さを控えめに。焼き上がったまんじゅうに「法螺吹」の焼印を入れると完成です。

 

友情と助け合いの精神が、スイーツ誕生の背景に

 平成22年1月、待ちに待った「法螺吹」の酒かす300kgを確保し、本格的な生産体制に入りました。同時に社会福祉法人のスタッフと話し合って、酒かす入りのケーキを作ることにもなり、新たな試作を開始。ケーキはまんじゅうと違いあんが入らないため、生地全体に酒かすが練りこまれます。前野さんいわく「まんじゅうより、酒の香りが強く感じられるのが特徴」で、風味豊かに出来上がりました。さらに、小麦粉、バターに砂糖を加えたものに酒かすを混ぜ入れて焼き上げたクッキーの商品開発にも着手。甘さを抑えてヘルシーに仕上げました。

 これで、酒かすスイーツとして「酒かす饅頭」、「酒かす入りケーキ」、「酒かすクッキー」の3種が完成。同年4月から販売を始めたところ、町民からの受けは上々。程よい甘さと香りが快い「酒かすバウムクーヘン」(1個 税込135円)も新たに加わりました。

 ただ、すべての商品の“キーワード”は「人に優しい商品」であり、防腐剤を一切使わないため日持ちがしません。どの程度売れるのかを見極めながら作っているのが現状です。

 地場産米で造った酒の酒かすをスイーツにする試みは、老舗菓子店の確かな技術に支えられ、販売にこぎつけました。その情熱の底には、若い時に互いに励ましあった、友情と助け合いの精神がありました。

 

  前野商店


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