旭川市から鷹栖町を通り、維文峠を越えたその先にあるログハウスの建物。
それが「山のカフェKAKURE -覚礼-」です。冬期間は、この道が通行止めになるため、和寒町側か、幌加内町側からしかアクセスできません。山のカフェの名のとおり、山の中にあるので、携帯電話は繋がりにくい電波不感地帯。ここでは、時間がゆっくり過ぎるような、そんな感覚に陥ります。
日常から解放されたこの空間を求めて、遠方からも常連のお客様がやってきます。夏場は、開放的なテラス席で、鳥のさえずりを聞きながら。冬は室内で、薪ストーブのぬくもりに包まれながら、それぞれの時間が過ぎるのを楽しみます。
かぼちゃの作付面積日本一としても有名な和寒町。「山のカフェKAKURE -覚礼-」がある福原のこの地は、和寒町の市街地とは離れた辺境の地。和寒と幌加内を繋ぐ道路からも、山に挟まれたこの盆地の存在には気づかず、「覚礼(かくれ)原野」と呼ばれていました。
後に、和寒で1番豊かな地域に。との願いをこめて「福原」と改名されましたが、当時の名残がそのままに、店名の由来ともなっています。
このお店でお客様をあたたかく迎え入れるのが牧和恵さん。株式会社北海道映画舎で映画制作などを手がける旦那さんの出身地である和寒町でカフェ事業を始めるために移住してきました。東京都出身 で、「都会から和寒の地に移住することは不思議がられることもありましたが、そんなに決心は要りませんでした。」と言います。
元々は、お義兄さんが釣り堀を経営されていたこの場所。しばらくの間、閉鎖していましたが、地域の人々の期待や、周りの人の後押しに応えるべく、準備期間を経て、カフェとして再出発を果たしました。
かつての釣り堀には、現在も、たくさんの小魚が泳いでいる様子が見られます。
この福原地区には、昔から伝わる湧き水「元気が出る水」があります。この湧き水を使って淹れたコーヒーは、気まぐれのお茶菓子とともに、保温ポットで提供されます。2~3杯分ほどの量が入っており、そこには、「心ゆくままに時間を忘れてカフェタイムを楽しんで欲しい」という牧さんの想いが込められています。ぜひ、この水を飲んでみてくださいという牧さん。カフェには、この湧き水を汲みに来るお客様もたくさん。
店内に調和する今では珍しい足踏みオルガンや足踏み糸車などのアンティーク品は常連のお客様からの頂き物。他にも、地域の方々からのお裾分けだという季節の野菜もたくさん。「私が軽トラで走っているのを見かけた農家さんが、野菜を取りに来るように連絡をくれることもあります。冬には、雪かきを手伝ってくれる人も。都会ではあり得ない地域の人々の温かい繋がりには感謝するしかありません。」と、牧さんは笑いながら語ります。
SNSなどで見かけた地域の事業者さんと繋がることもあります。そのひとりが、和寒町でオーガニック麹のオーダーメイド販売などを手がける「Hakkko Ckass.」の塚本麻里さん。
最初は牧さんから、SNSでコンタクトをとったのがきっかけでしたが、今ではすっかり仲良しで、湧き水を汲みに来る常連さんのひとりでもあります。
青空に映える塚本さんの麹工房。ここで、麹をつくっています。
塚本さんは、千葉県出身。発酵マイスターやオーガニック料理ソムリエの資格を有しており、オーダーメイドによるオーガニックの麹販売や手作り発酵食教室を主宰する等、発酵食の魅力を広める活動をしています。過去に、和寒町で農業体験を行った縁がきっかけで、和寒町に移住しました。
麹作りに適した環境に改装した工房は澄み透るスカイブルー、国産杉の天然素材にこだわった麹室で、「元気が出る水」を使って、素材のエネルギーを活かした麹を作ります。「いろいろなことに挑戦したい。」と語る塚本さん。何より、ものづくりが好きだというそのエネルギーは発酵食を超え、様々なフィールドへ広がっていく予感を感じさせます。
和寒町に移住を決めたのは、「この地域の人々とのご縁でした。」と言います。これまでに出会ってきた、ヒト・モノ・コトの繋がりが、さらにこの先に出会っていく新たな出来事に繋がります。こうして、この工房から、「元気」が、また、「好き」というエネルギーが、地域に広がり、繋がっていくのでしょう。
塚本さんの米麹を牧さんがカフェメニューにアレンジしたのが、「食べるシャリシャリ甘酒」。和寒町の湧き水と米のみで作られた和寒産米麹を甘酒にし、米本来の甘さを活かしつつ、独特な食感を生み出しました。自家製のショウガシロップも米の甘さを引き立たせる優しい甘さで、甘酒のイメージを変えるような一品に。「甘酒は、食べる点滴とも言われるほど、栄養が豊富。塚本さんの米麹が本当に魅力的で、カフェらしくスイーツに活用しました。」
甘酒が苦手という方にもぜひ試して欲しい「食べるシャリシャリ甘酒」。透き通った米の甘さがとても魅力的な一品です。
その他にも、店内には、近隣農家さんのトマトジュースや、豊富な栄養素を含む、わっさむペポナッツ等、和寒町の事業者さんの商品が。「若い人達の励みになれば」と、積極的に町内の事業者さんの商品を紹介します。
「和寒町の若い人たちには頑張って欲しい。過疎化が進むこのまちで、若い人が頑張っていることが重要。」と言う牧さん。
かつて、誰にも気づかれなかったこの覚礼原野から、和寒町のエネルギーは、広がり、繋がり、合わさり、和寒町の輪をカタチづくっていきます。
~問い合わせ~
▶山のカフェKAKURE-覚礼-
住所:上川郡和寒町字福原253番地
電話:0165-32-5400
URL:https://hokkaidoeigasha.com
Instagram:@kakure.hukuhara_wassamu
★令和4年3月掲載