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中川町でたった1つの菓子店「とらや菓子司」の2代目、原口義紀さん。19歳からお菓子を作り続けています。
中川町で、たった1つのお菓子屋さん「とらや菓子司」。昭和30年代初期、「とらや」が開店するまで中川町に菓子店はなく、創業以来60年以上中川町民に愛されてきました。その2代目原口義紀さんが、平成19年に開発した中川町特産品が、よもぎを使ったお菓子「よもぎ話」です。
中川町商工会の中川町特産品開発委員会から、地元の農産物を使った商品ができないかと依頼された原口さん、どうしたら良いだろうとあれこれ頭を悩ませていました。
そんな時、偶然見つけたのが調理場の隅に置いてあった亡き父のノート。黒い手帳と水色のノートには、何十年もかけて手を加え改良し、父親が自分で作ってきたレシピが丁寧に書かれていました。原口さんは、その中にあったお菓子「高原の月」の配合に、よもぎを加えスポンジを製作。そこに、カスタードクリームを合わせました。「高原の月」は、かつてとらやで販売していた懐かしいお菓子の名前。「色んな作り方で試してみたけど、じっちゃん(父親)の作り方が1番合ったんです」と原口さん。
よもぎという和のイメージのものに、洋のカスタードクリーム。この異色の組み合わせは新鮮で、よもぎの香りと甘いカスタードが意外にぴったり。ふわふわのちょっとオーガニックなスポンジに、甘みを抑えたシンプルなカスタードクリームが、しっとりと溶け合います。
「和だとか、洋だとか考えるのは生産者だけで、消費者は意外に気にしないのではないかと思ったんです。このお菓子は、こうじゃなきゃいけないという考えはやめました」。知らぬ間にとらわれていたお菓子のイメージ。その思いを解き放った時、新しい味が生まれました。
★「よもぎ話(カスタードクリーム)」 1個140円(税込) ★「よもぎ饅頭」1個140円(税込)
ご注文は3日前までにご予約ください(1個からでも可)。地方発送もできます。
菓子職人の父親の姿を見て、原口さんは10歳から同じ道を進もうと決めていました。父親は和菓子でしたが、原口さんは洋菓子職人に。札幌などで修行を積み、平成7年に家業を継ぐため中川に帰郷。6年間両親とともに「とらや」を支えてきましたが、天塩町への出店を勧められ、平成12年に天塩店をオープンさせました。お父様が亡くなってからは両店を行き来し、主にケーキ類を天塩店で、蒸し物のお菓子を中川店で作っています。
「じっちゃん(父)とは、ケンカしたことしか覚えていないなぁ…。昔の人はサッとやって“こんな感じだ”って言うだけで、分からない。生きているうちにもっと詳しく聞いておけば良かったと思いますね」。ですが、最近は「じっちゃんの味に似てきたなぁ」と言われるようになったそう。「もう完璧にできると思っていても、まだ“似てきた”なんです。長年のお客様には分かるんですね」と苦笑い。父親の背はいつまでも大きいのかもしれません。
もう1つ、同じノートのレシピを使い「よもぎ饅頭」も作りました。ノートには何のことか分からない事が多く、古くからの菓子問屋に教えてもらうことも。ノートを見せると、「未だにこんな製法で作っているの?」と驚かれたとか。
そんな初代父親の饅頭は生地がしっとり、もちもち。開発委員会の皆さんも試食の時に「やっぱり、じっちゃんのレシピが1番」と話したといいます。じっちゃんの味は、この町に暮らす開発委員の皆さんにとっても、幼い頃から慣れ親しんできた味。知らず知らずのうちに自然とその味を選んだのかもしれません。
普段は天塩店で洋菓子を専門に作る原口さん。「和菓子の単純作業ほど、誤魔化しがききませんね」。和も洋も、丁寧に取り組みます。
ひと口食べた瞬間、鼻から抜けていくよもぎの香り。
「風味が違うんです」と原口さんが選んだよもぎは地元の「翔北農園」のよもぎ。「生産者が見えて安心ですよ」と原口さん。
翔北農園は、中川町の(株)中川阿部建設の関連企業で、自然に生えているよもぎと、自社の畑で育てるよもぎを一次加工しています。毎年春になると、早朝4時から8時までに採った朝摘み新鮮よもぎを、その日のうちに加工。しかも自社農園では農薬を使わずに栽培しています。
採取するのは、上部10cm~15cmの部分のみ。新芽の柔らかい部分しか使わないこだわりのよもぎです。ゴミや虫を手作業で取り除き、茹でたよもぎをミンチにかけペースト状に。それを真空パックにして急速冷凍します。採取の時期は5月末からわずか1~2週間しかありません。それ以上過ぎると、大きくなりすぎて硬くなるのだそう。翔北農園では年間4トン弱のよもぎが加工され、主に製菓店へ販売していますが、個人の方にも小売でも1kgから販売しています。
よもぎを使うことで、洋菓子専門の原口さんが戸惑ったのは、生地によもぎの粒が残ることでした。洋菓子の感覚だと綺麗に生地に混ぜ込むのが通常。繊維の多いよもぎは、どうしても粒が見えてしまいます。
生のよもぎを使うより、パウダーのほうが綺麗な生地に仕上がるのでは?と迷う原口さん。でも、中川町の自然の中で、原口さんはその迷いを吹っ切りました。「本物は、よもぎの繊維が残っていて当然。例え緑の粒が残っていても良いじゃないか。都会のように綺麗な包装で綺麗な形じゃなくても、田舎なら田舎らしさを出したい」。美しく装うことよりも、中川町の自然の中で育まれた本物のよもぎを使うことにこだわった原口さん。それこそが中川町の特産品なのです。
父親のノートに書き綴られたレシピ。父の字が並ぶ、その1番下に原口さんは自分の字で、新しく「よもぎ」と書き加えました。中川町を代表する銘菓、それはこの町にお菓子を届け続けた亡き父と、原口さんとのコラボレーションです。
とらや菓子司 中川郡中川町字中川325番地の2 |