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育苗中のでんすけすいかの苗をいとおしそうに見つめる、部会長の舟山賢治さん。
スイカといえば、緑と黒の縞模様。そんなイメージを破り、黒いスイカが市場にデビューしたのは昭和59年。仕掛けたのは、当麻町の農協青年部15人の仲間たちでした。
当時は、一村一品運動が全国的に高まっていた頃。また当麻町の農業後継者たちも減反政策に苦悩しながら、米中心の農業に代わる道をそれぞれが模索していました。そんな時に出合ったのが、種会社のパンフレットに載っていた黒いスイカ「タヒチ」でした。それまで産地として作っているところはなかった品種です。しかし15人の青年たちは「他にないからこそ、うまく作れば特産品になるかもしれない」と2ヘクタールから栽培に着手しました。
とはいえ、ほとんどのメンバーがスイカに関しては素人。それでも、「人の後を追いかけても二番手にしかなれない」と考え、挑戦することに。稲作の状況が悪化し、危機感あふれる時代だったからこそ、とにかく行動に移そうとする若い力が新しい伝説を作り始めたのです。
★当麻町産「でんすけすいか」
センサーによる厳しい選果をクリアして市場に出される「でんすけすいか」。
そんな苦労の末、ご家庭に届く「でんすけすいか」に、消費者から美味しかったとお礼のはがきが農協に届くこともあります。
「1日、目を離しただけでダメになることがあるので、スイカの栽培が始まると家を空けられません」と語るのは、当麻町そ菜研究会でんすけ部会長の舟山賢治さん。栽培を始めた15人の息子世代に当たります。
スイカの種は寒さに弱いため、昭和63年から接木をして栽培するようになりました。これにより、ハウス内での連作を可能にし、病気にも強くなるのです。しかも栽培には徹底した管理が必要で、確実に目標の大きさにするため、良いものだけを1つ残す摘果栽培を実施。1つの苗でたった1個を大切に育てます。そんなスイカのことを、舟山さんは「株が親で実が子ども」とたとえてくれました。株が大きくなりすぎると実がつかず、逆に生育が芳しくない時には未熟な実ができる。「まさに子育てと一緒。女性の方がスイカの細かいところに目が行き届くのは、やっぱり母親だからでしょうか」と笑います。
夏は高温になる上川盆地は、スイカ作りに適した土地。
それでも畑によって土壌に違いがあるため、土作りには気を使います。
まだ雪深い時期から、農協のハウスでは苗が育っています。
でんすけすいかには厳しい選果基準があります。空洞がないかのチェックはもちろん、6台のカメラで色合いやズレ、美しい球体かなどを判定し、最後に糖度のチェックへ写ります。2台のセンサーで連続測定することで、糖度の偏りがないかまで調べます。
出荷基準は11度以上。少しでも下回っていたら廃棄されます。「持ってきたすべてのスイカを廃棄したこともありました。みんな一度は経験しているんじゃないでしょうか」と苦笑する舟山さん。もったいないと思われるかもしれませんが、ブランドを守るために生産者自らが決めたルールなのです。「これだけの設備を整えて厳選しているのは、日本でもここ当麻農協だけです」と、当麻農協営農部の池田渉さんも、自信を持って語ります。
さらに「でんすけすいか」というスイカらしくないネーミングは、水田の転作作物として「田を助ける」という意味と、ツルッとした外観が喜劇役者の大宮敏光さん(通称でんすけさん)に似ていることから命名。一度聞くと忘れられない名前です。平成元年には野菜としては珍しい商標登録も行い、類似品から「でんすけ」というブランド名を守っています。また黒と赤を使った印象的な化粧箱の登場は、高級ギフトとして扱われるきっかけとなりました。後にパッケージのコンテストで金賞を受賞しています。このパッケージデザインを生かしたボックスティッシュも作られており、中身のティッシュも黒と赤の2色という斬新さ。生産者自らの新しい発想が、黒皮のスイカのブランド力を高めているのです。
(左)センサーを通るでんすけすいか。すべてをクリーンルームで行うなど、徹底的にこだわります。
(右)当麻農協営農部施設園芸課の池田渉さん。
年間7万玉が出荷されるでんすけすいかですが、実は当麻町民でも食べたことがないという人も多いと舟山さん。「ここまででんすけすいかを育ててくれたのは、町の皆さんの協力あってこそ。僕たちが自信を持って送り出しているスイカたちを、もっと地元の人に食べてもらいたいし、身近に感じてもらいたいんです」。
地元の小学生を対象に、植え付けや収穫体験などを学校の授業として行っているほか、町の夏祭りで試食会を実施するなど、「まずは食べてもらう」活動を始めました。また、札幌や道外でも試食会や販売会に出展するなど、でんすけすいかの普及に力を緩めることはありません。すべては、地元への恩返しのため。
小学校での授業の様子。生産者と農協が協力して取り組んでいます。
「かつては67軒いたスイカ生産者ですが、今は37軒(平成27年3月現在)。でんすけすいかは、植えてから収穫まで100日ほどかかるのに1株に1玉しか獲れないわけです。僕たちの世代が、それだけ丹精込めて育てているでんすけすいかの価値を高めていくことで、『やっぱり当麻にスイカがあってよかった』と誇りに思ってもらえるのではないかと」と舟山さんは語ります。
田んぼを助けてきたでんすけすいかは、新しい世代の手によって、当麻の人々が互いに助け合う存在としてその価値を高めつつあるようです。
JA当麻 当麻町そ菜研究会 事務局/当麻農業協同組合 |