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「嬉しいのは、買ってくださる方の笑顔。子ども達が喜ぶ姿です」と川崎さんご夫婦。
「ちたらべ」。ちょっと聞き慣れないこの言葉は、アイヌ語で「手作りの花ござ」を表します。士別市で美味しいケーキの花を咲かせる「ちたらべ」。アトピー性皮膚炎の1人娘の為にお母さんが焼いた無添加で安心できるケーキ、そんな母の愛情が「ちたらべ」の原点です。
そのお母さんは、川崎方子さん。お子さんに作っていたお菓子を友人にも贈ると、大好評。そのうち、作ってと頼まれるようになりました。でも保健所の販売許可が無いので売ることはできません。
その頃、ちょうど川崎家では家の改築話が進んでいました。「チャンスだから小さな厨房を作ったら」友人のアドバイスを受け、すぐご主人に話した川崎さん。でも答えはNO。それでも川崎さんは粘りました。「女だって何かを始めたい」涙ながらに訴える川崎さんのため、優しいご主人は自分の書斎スペースを厨房に変更。こうして昭和62年、厨房を作り保健所の許可も取り販売を開始しました。その後平成9年に現在の場所へ移転。
当初の販売は友人の喫茶店などで、家で個人販売はしていませんでした。それが、探し当てて直接買いに来る人たちがどんどん増え、平成11~12年頃から裏玄関にショーケースを置いて販売。
それは、2人も入れば一杯になるぐらいのスペースでした。外で待ち、1人帰ったら中に入ると言う状況。そこで「もう少し頑張ってみよう」と、平成21年家を増築、販売スペースを5坪に広げました。
ケーキの中ではミルフィーユが1番人気。卵と牛乳の味が生きた手作りのカスタードクリームが美味しい。
シフォンケーキも定番商品。数に限りがあるので、来店前に予約することもできます。
同店の特徴は、全てのスポンジケーキを無水鍋で焼いていること。特に無水鍋で焼くシフォンケーキは、ふんわりと柔らかく絶品です。実は無水鍋を使ったきっかけは、当時オーブンが買えなかったからでした。でも無水鍋のほうが美味しいと確信。オーブンは水分を飛ばしすぎてパサパサになりがちですが、無水鍋なら適当な水分が残りしっとり。焼き上げてすぐより、翌日が一番良い状態になります。
お子さんに作るのと同じ気持ちで作る同店のケーキは無添加。母親が作ってくれた懐かしい優しい味です。「普通の家庭でお母さんが作る料理は、添加物や香料は入れませんよね。添加物が入っていないから、優しくてしつこくない。自然の甘味なんです」。優しいからまたすぐ食べたくなる、そんな味です。
(左)無水鍋で焼くシフォンケーキ。
「親からもらったもので、1番感謝しているのは味覚ですね」。味覚が鋭いということは、美味しいものを作る事に繋がる大切な部分。とくに、川崎さんは独学でお菓子作りを覚えたため、自分の味覚は重要な鍵でした。
まず、本のレシピ通り作ってみる。でも本は本当に知りたい部分は詳しく書いてありません。あとは、親からもらった味覚の見せ所。本のレシピで足りないもの、多すぎるものなどを変えていき、自分なりのレシピを見つけていきます。基本的なところだけ守り、それに手を加えオリジナルを作る。それが川崎さんの方法でした。
独学ということは師匠がいないこと。それは辛いことでもありました。「師匠がいないから、分からなくても聞く人がいない。その分、自分で調べたり試行錯誤して、時間がかかりました。壁にぶつかった時、師匠がいないので逃げ道が無いのが大変でしたね」。それでも、美味しいものを提供したいという強い思いから、妥協することはありません。
納得できるまで、作り直す。納得できなければ、発売しない。同店で売る50種類ものお菓子は、すべてそうやって完成したものです。
そして、今回特にご紹介するのが生キャラメル。すでにブームが去った感のする生キャラメルをあえてご紹介するのは、同店ではいまだに売れ続けている本物だからです。
生キャラメルがブームだった頃、半年かけて開発。「半年かけただけの価値はあると思っています」と、川崎さんにとっても自信作です。配合は、もちろん同店オリジナル。
弱火でゆっくり4時間。難しいのは、最後の仕上げの温度調節。気を抜くとこげてしまうので、目を離すことができません。目指したのは、口の中で完璧に溶けないで少し残る余韻。そして絶妙な塩加減。実は開発に半年かかったのは、最後に足りない一味がなかなか判らなかったから。
途中で諦めかけた時もありました。アメリカに住む娘さんにも相談。ネットを利用して色々調べてもらい、ようやく求めていた隠し味を発見。それを入れる事で、口当たりに滑らかさが生まれました。しつこくなく、濃厚、口どけ。その条件を満たすキャラメルは5種類。塩味はフランス産の塩を使用。「たくさんの中から味で選んだら、高いフランス産だったんです」と苦笑い。その味をどうぞ堪能してみて下さい。
★「生キャラメル」(プレーン)540円(税込)、(塩)560円(税込)、(紅茶・アーモンド・チョコレート)各590円(税込)
今でも売れ続けている絶妙の美味しさです。
ご主人も土建業から55歳で脱サラし、同店を支えています。「土建もケーキづくりも両方とも難しい」。でも、今ではその姿もベテラン。厨房にずらっと並んだガス台に向かい、6台~8台の無水鍋をガスにかけスポンジを焼きます。1台ずつ微妙な火加減を見て焼くので、それは大変な作業。そのメインとなって働くのがご主人です。「男の人は本気になった時、強いですね」と川崎さんも認める力です。
お店を作る時、川崎さんのお父さんも資金の一部を貸してくれました。「きっと死ぬまで働いても、このお金の元は取れないだろうなぁ」とつぶやきながら。それでも娘を応援したいと、貸してくれたお金。結局、人気店になる姿を見ずに他界。
「父さんが見てくれたら喜ぶだろうなぁと思います」。そのお父さんが、亡くなる前の暑い夏に、自分がもう出来なくなるのを判っていたかのように汗だくになりながら看板を作っていました。その姿が川崎さんの目に焼きついています。まるで、娘に残せる最後のものを作るかのように、必死に彫っていた看板が、今も「ちたらべ」を静かに見守っています。
ちたらべ 士別市東7条10丁目455-116 |