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仕込んだ酒の発酵具合を見る森本さん。
「昭和30年代から40年代にかけては、酒は甘口が主流でした。それは当時の嗜好というより、時代の流れだったと思います。そんな中で高品質な辛口へのニーズが高まるという流れをいち早く見抜き誕生したのが「国士無双」です。昭和50年の発売以来、全国の皆様から愛されています」と話すのは髙砂酒造の企画部明治蔵担当で店長を務める山崎浩一さん。辛口ファンの期待に応えた同社の看板銘柄が、いまなお高い人気があることを説明します。
一方酒を仕込むのは杜氏の森本良久さん。酒造りを始めて20年以上の醸造歴です。「ようやく、北海道の米の味わいを安定して醸せるようになってきました」と謙遜しますが、平成21年の全国新酒鑑評会で金賞を受賞。目標に掲げていた3年連続での受賞を獲得しました。日本清酒で培った技術は、旭川でもさらに磨き挙げられて北海道産の米をさらにワンステージ高い評価へと押し上げてくれるでしょう。
★「国士無双 純米吟醸酒」(720ml)1,534円(税込) (1,800ml)2,916円(税込)
(右上)北海道産米きたしずく55%精米。(右下)麹造り。
髙砂酒造は明治32年に「小檜山酒造店」として創業。福島県会津から札幌に移住し雑穀商を営んでいた小檜山鐡三郎の酒蔵創業は、知り合いの酒造場から酒造りの道具一式を譲り受けたのが始まりとされます。旭川では4番目の酒造業者でしたが、その後、酒の需要は増え続け10数軒にまで拡大。旭川は水量の豊富さや水質の良さもあり、「北の灘」と呼ばれるほど、酒造業の盛んな地域として知られていくことになります。
そんな厳しい競争世界の中で、「小檜山酒造店」は丁寧で堅実な酒造りを続け、わずか10年で現在の酒蔵を建設。今も宮下通り沿いにある住居兼酒造場の建物で、旭川の歴史的建造物にも選ばれています。当時造られていた酒は「旭高砂」と「福泉」の2種。名酒の呼び声も高く売れ行きは好評でした。
工場内には数多くの仕込みタンクが並びます。
しかし、地元では名の知れた銘酒であっても、全国的な品評会での評価は低いものでした。そこで危機感を覚えた旭川の蔵元たちは、結束して技術交流や蔵の公開を行い、技術の向上に取り組みます。
そして大正15年、「小檜山酒造店」は全国新酒鑑評会において見事一等賞を受賞。北海道の蔵元では初の快挙で、旭川の酒造りのレベルの高さを全国に知らしめました。昭和4年には当時としては珍しい鉄筋コンクリート作りの酒造工場も建設するなど、事業を拡大していきます。
順調に業績を伸ばしていた「小檜山酒造店」は市内の酒造会社を吸収合併し、昭和40年に「髙砂酒造株式会社」に改名。新たな酒造りにも取り組んでいきます。
甘口から辛口へ。そんな時代の流れを感じとり、昭和50年、杜氏と蔵人が渾身の酒として世に送り出した「国士無双」は髙砂酒造をさらに有名にしました。全国的なヒットとなり、髙砂酒造の知名度は一気にアップ。
人気ブランドとして定着している「国士無双」シリーズは、現在10数種類にも及びます。中でも、代表銘柄となっているが「純米吟醸酒 国士無双」。北海道産酒造好適米「きたしずく」を55%まで精米して使用。上品で華やかな香りとキレの良いすっきりとした味わいが日本酒好きに受けています。
明治42年に建てられた酒蔵は、今も昔と変わらぬ風格が漂います。
森本杜氏は「大学では科学を専攻していたのですが、日本清酒に入社して初めて酒造りの技術者になりました。札幌工場では機械化が進んでいますが、髙砂酒造では手作業の部分が多いです。またこちらの水はミネラル分の少ない軟水ですが、札幌では逆にミネラル分の多い硬水を使っていました。当時の杜氏から酒造りを教えてもらいましたが、同じようにやっても失敗することがありました。3年目を迎えた頃、やっと国士無双の造り方が分かってきました」と環境が違う中での酒造りのむずかしさを説明します。
全国にいる国士無双のファンの為にも、発売当時の味を引き継がなくてはなりません。森本さんにかかる期待は大きなものがあります。
「蔵人は20代から60代までいますが、杜氏として全員の能力を十分に引き出すことが求められます。また、自分がやっていることのレベルを上げることも必要になりますね」とも付け加えます。
国士無双に続き、髙砂酒造が力を入れているのが、平成29年から販売開始した「氷温貯蔵 旭神威」です。この酒は兵庫県産山田錦を35%まで高精米し、長期低温発酵を行い搾った新酒を生の状態で氷温(0℃以下で凍るまでの温度)貯蔵します。濾過は通常より少なめにして、火入れはパストライザーによる瓶燗火入れの一回のみで仕上げることにより、生酒特有の華やかな香りを保ったまま、旨味が増し、すっきりと滑らかで瑞々しい飲み口になるのが特徴。
また商品名である「旭神威」は「旭」が旭川の朝日や太陽の光を表し、「神威」は神格を有する高位の霊的存在(旭神威においては“大雪山”であり“水”であり、“自然”である)を意味し、題字は、旭川出身の書道家 本田蒼風さんが書したものです。旭川のとっておきで醸した「旭神威」が「国士無双」とともに看板商品になる日は近いでしょう。
髙砂酒造 株式会社 旭川市宮下通17丁目右1号 |