居酒屋十一『豚丼のたれ』

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「十一という名は花札だと役が1つ足りない。一生懸命働いてもプラマイゼロさ」と笑う若山十一さん。

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 創業38年。上川管内で最北の地、中川町の居酒屋十一(とういち)。ここに、好きな人は週に3度も食べに来るという定番メニューの豚丼があります。この豚丼をご家庭でも味わってほしいと、経営する若山十一さんは7年前「十一手づくりの味 豚丼のたれ」の販売をスタートさせました。

 そんな若山さんが料理人の修行を始めたのは、昭和33年。中学を卒業したばかりでした。その頃、父親は重い病気で寝たきりの状態。若山さんが住み込みで見習いをするために札幌へ旅立つ日も、父親は家のストーブの横で寝ていました。その姿に後ろ髪を引かれるような思いで、お母さんと2人夜行列車に乗った若山少年。「俺より母親が大変だったと思うよ。自分のダンナが生きるか死ぬかの時に、真夜中12時の夜行列車に乗って送ってくれたのだから、お袋の心中は辛かったと思う」。50年以上の歳月が経った今でも、その夜のことが若山さんの脳裏に鮮明に焼きついています。この12時発の夜行列車が、若山さんの料理人としてのスタートでした。

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★「十一手づくりの味 豚丼のたれ」 1本 (250g) 750円(税込)同店のほか、道の駅なかがわでも販売。地方発送もします。
居酒屋十一での販売のみ、店まで来ていただいてありがとうの思いを込めて600円になっています。
業務用としても販売しています。また、「中川町産行者にんにく入り十一万能たれ」1本(250g)750円(税込)もあります。

 

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 住み込みの見習い先は、札幌市内のレストランでした。「もともと作ることが好きだったから、抵抗もなく、そういうものだと思って働いていた。腹が立つことも辞めたいと思うこともなかった」。しかし、同時期に入った人たちは次々と辞めていきました。「この仕事は、20人~30人がヨーイドンで始めても、残るのは5~6人。やっぱり、大変だからみんな途中で辞めていったね」と若山さん。

 見習いの仕事は、朝6時から夜9時まで働きづめ。当時の調理器具は、まだ石炭が熱源のレンジストーブの時代で、石炭をムロから運ぶのが朝の仕事でした。自分たちの部屋がお客様用のマージャン部屋に使われることもあり、そんな時は階段で寝ていたといいます。

 食事も、温かいご飯を食べられることはありませんでした。お味噌汁には、サンドイッチの残りの耳が麩の代わりに浮いていました。「でも店主のおばあちゃんが良い人でね、さりげなく汁を足してくれたり、助けてくれるんだ」。真面目に頑張っていれば、支えてくれる人がいる。そのことを身をもって感じていた修行時代です。

 

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 当時、厳しく教えられたのは、基本でした。例えばおひつは木目に沿って洗う。まずは洗い物を完璧にすること。「それが勉強になったと思うね。今も役に立っている」。そして、物を粗末にしないこと。「ダシをとる昆布も佃煮にできる。調理の仕方によって、食べられるようになると教えられた。食べ物を捨てることはしないんだ」。

 そんな修行時代を経て、旭川や東京のレストランでも働き、34歳の時に帰郷。居酒屋十一を始めました。看板の絵はお兄さんが描いてくれました。のれんも開店当時から使っている年代ものです。

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 創業30年を迎えたとき、店で出していた豚丼のたれを販売することを思いつきました。開業時に、試行錯誤を重ね完成させた豚丼のたれ。同店の人気メニューとして、30数年愛されてきた味です。

 味つけは、豚丼としては珍しい味噌ベース。味噌を入れることでまろやかさを出しました。2時間かけて煮ますが、沸騰させてしまうとたれが鍋の縁に付いてカラメルの状態になり、混ざると味は一変し苦味が出てしまいます。そのため仕込みからビン詰めまで、全て若山さん1人でお店で作業。気が抜けない作業ですが、「絶対美味しいという自信がある」と胸を張る若山さんです。

 お客様の身内が名古屋から遊びに来たときに食べて、美味しいと50本の注文を受けたこともあるとか。豚丼だけではなく、焼肉のたれに、チャーハンの隠し味に、一口大に切った肉に絡めて唐揚げの下味にと使い方は様々。「こんな食べ方があるとお客様に教えられています」。

 中川町の道の駅内のレストランでも、このたれを使った豚丼を提供しています。「店と同じ味になるように指導しています。そうでないとたれに申し訳ない」と若山さん。

 “たれに申し訳ない”。ここにも、修行時代に叩き込まれたものを粗末にしないという思いが表れています。

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創業以来守り続けてきた秘伝の味。深みがあり、生姜が効いています。
豚丼だけではなく、野菜炒め、生姜焼き、焼き鳥のたれなど、様々な料理に使えます。

 

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 料理のコツは火加減。肉には8割程度しか火を通しません。それは、余熱でお客様の前に運ばれた時が一番美味しい状態になるように。料理の完成はお客様の前に運ばれてきた時なのです。厳しい修行と長年の経験が、その瞬間を見極めます。「家庭で食べる料理と、どこか違うところを見せないとお金を頂けないからね」。お客様にお出しするまでの数10秒を予測した調理。それがお金を頂く価値に繋がるのです。

 「忙しくなると、手伝っている家内も“奥さん”じゃなく、“弟子”になるんだ。もっとニコニコしながら仕事したらと言われるが、美味しいものを提供するためには真剣に作る。ニヤニヤしながらなんて作ってられない」。本当に美味しいものを出すためには、1品1品が真剣勝負。忙しくなると表情も変わります。若山さんは言います、「ゴルフの大会だって、静かにして見てなきゃならない。料理人もゴルフのプロに近いものがある」と。

 居酒屋での仕事は、いちいち量って調味料を入れる訳ではありません。指先の感覚が命です。長年の勘で味見もしません。だから「指先が口の中だね。指の先が、代わりに味見してくれているんだ」。あの日、真剣におひつを洗った指先が、石炭を運んだ手が、十一の味を守っています。

 

居酒屋 十一

中川郡中川町中川357-1
電話・FAX/01656-7-3449
https://www.izakaya-toichi.com/

 

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