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雪解けの工房の前に立つ荒川求さん。
旭川市街と幌加内町の境目にある江丹別。その峠の麓に旭川あらかわ牧場とチーズ工房があります。熟成庫には、赤や黄色の鮮やかなワックス(食品用ロウ)に包まれた手のひらに乗るほどのチーズがずらりと並んで眠っています。
「熟成させることを目的としたナチュラルチーズの、熟成前の若いもののことをグリーンチーズと呼びます。最大の特徴は、自宅の冷蔵庫で熟成させられること。食べる時期によって風味が異なるのがチーズの面白いところですので、それを自分の好みで選んでいただけるように提供しています」と話すのは、旭川あらかわ牧場の2代目で、チーズ職人でもある荒川求さんです。平成25年に設立した工房の前で語ってくれました。
左から、★コクの赤、★ミルク風味の黄、★マイルドの橙、★香燻の茶(スモーク)各200g(オープン価格)
旭川あらかわ牧場は、30年前にこの江丹別に入植。それ以来、牛にできる限りストレスがかからない方法で酪農を続けてきました。荒川さん自身も父親も酪農学園大学出身。「自然と牛飼いになった」と笑います。
父親が自家用にチーズを作っているのを見てチーズ職人に興味を持った荒川さんは、卒業後に新得町の共働学舎、宮城県の蔵王、山梨県で修行を積んだ後、工房を設立。平成25年6月から製造を開始しました。6次産業化事業者認定の第一期だったそうです。
事業者認定されると、さまざまな分野の専門家が無料相談を受けてくれるなど利点があります。荒川さんも工房建設の際には保健所のアドバイスを受けたり補助金を活用したりと、無理なく経営が軌道に乗るよう工夫し続けています。
色鮮やかなワックスで包まれた、美しいフォルム。蔵王での修行中にこのワックスタイプのチーズに出会ったことと、チーズが苦手な人でも味わえる、グリーンチーズの存在を知ってもらいたいという思いとが一つになり、現在の形が出来上がりました。
チーズを作って乾燥させた後、薄いクリーム色のワックスを3回下塗りし、そこから色付けを2回行います。ワックスには目に見えない小さな穴が開いていて、空気は通りますがカビや雑菌は通しません。ですので、チーズは自然と呼吸しながら美味しく熟成していけるのだといいます。荒川さんは研修中にワックスコーティングの方法を学んだ後、研究を重ねてたどり着いたのがこの「5層」なのだそう。
「ワックスがけを120℃ほどの高温で行うとうっすらと付くので、重ね塗りをしても分厚くならないのが特徴。チーズ作りの器具も厳選して、食べる時にワックスがきれいに剥がれるように気を配っています」。
商品化を待つチーズが並ぶ棚の向かいには、日付を記載したふせんが貼られたチーズもずらり。製造日ごとのサンプルはもちろん、これまでに試作したチーズを、必ず1個ずつ保管して状況を観察し続けているそうです。
こうして荒川さんの探究心が生み出したチーズは、北のハイグレード食品+2015に認定されました。
(左)出荷を待つ熟成庫の中のチーズ。
(右上)研究用の試作品や日々のサンプルもしっかり保管。
(右下)これが食用のワックス。パプリカなど食べても害のない素材で色付けされているそうです。
「接客も大好き」と話す荒川さん、大学卒業後数年の間、旭川市内の百貨店で接客業に携わっていました。その時の経験は、チーズ職人となった今も生かされているといいます。「物産展などで試食をお渡しする時に、どうしたらお客様にインパクトを与えられるか。試食する時間もどう楽しんでいただけるかを考えるようになりました。例えば、グリーンチーズと熟成させたものとを一緒にお渡しします。まずは香りをかいでいただいて、それから食べ比べてもらう。その時のお客様の驚いた表情を見るとうれしくて仕方ないです。きちんとお一人ずつに説明するから、けっこう時間がかかるんですよ(笑)」。
しかも荒川さんのチーズは、物産展以外では旭川市内でしか購入できません。ネット通販なども行わない。それは荒川さん自身のこだわりでした。
一人ひとりに丁寧に対応するのも、チーズは食べる人の好みが大きく関係する食品であり、それが魅力の一つだと考えるからに他なりません。
「江丹別の方々から言われたんです。旭川から出て行かないでほしいって。『札幌などに行く時に、旭川にしかないものだよ、といって大切な人へのお土産にしたい』と言ってもらえて、本当にうれしかったんです。まあ、これ以上生産数を増やせないので現実的にも難しいです」と荒川さん。それもそのはず、1回で作れるチーズは70個。牧場の作業とチーズ作り、物産展への参加など、あらゆることに挑戦し続けているのです。
今後は、チーズとその食べ方を一緒に提案できるようなキットを展開していく予定もあるそう。走り始めたばかりのチーズ職人の未来に、ますます期待が高まります。
旭川あらかわ牧場 合同会社 旭川市江丹別町拓北582-4 |