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そば畑に立つ北村えみさん。幌加内に来た頃はペーパードライバーでしたが、今ではトラクターで畑仕事をすることもあるといいます。
「名実ともにそば日本一の町を目指す」。そばの作付面積、生産量ともに日本一の幌加内町に誕生した町長のそんな想いに導かれ、北村えみさんは人口1300万人超の首都・東京から人口約1400人の幌加内に、地域おこし協力隊としてやって来ました。
幌加内町での所属部署は、立ち上がったばかりの「地域振興室そば振興係」。幌加内のそばを多くの人に広めていくためのアイデアをカタチに変える仕事です。観光パンフレット作りに始まり、そば料理の講習会やレシピ集づくり、フランスやロシア、中国をはじめ12カ国のそば料理が並ぶ「世界そばフェスタ」の運営など、活動は多岐に渡りました。
白いそばの花でいっぱいの8月の幌加内。美しい景観をPRしようと展望台もつくられました。
そばの花。
すべてが手探りで進むなか、こだわったのは生産者をはじめとする町民を巻き込んでいくことでした。地域おこし協力隊としての任期を終え東京に帰ったあとも、「そば振興」の活動が続くよう、体制を整えてこの地を離れるつもりでいたのです。ところが、思いがけない転機が訪れます。それは自身の結婚でした。
嫁ぎ先は当時からそば生産者として町内では名の知れた北村そば製粉。生産そして製粉に携わるようになった北村さんは、小麦粉のように使い勝手が良いわけではないそば粉の活用の幅を広げたいと、地域おこし協力隊時代に知った、世界の多彩なそばの食べ方。なかでもそば料理講習会で作ったガレットに、日本で受け入れられる「伸びしろ」を感じたといいます。
ガレットはフランス、ブルターニュ地方の郷土料理。そば粉生地の片面を薄く焼き、フライパンの上で具材をトッピングするのが特徴で、ハムやチーズ、卵、 野菜などを乗せれば食事代わりに、フルーツやクリームを乗せればスイーツになる万能さが特徴です。
「農家のお母さんたちは、そんなの昔からあったって言うんです。家庭料理として普通に食べてるよって。でもその割には浸透してない。ガレット屋さんで食べたら、めちゃくちゃ美味しいんですよ。それなのにどうしてそれを、そばの町から発信しないんだろうって」
そこから北村さんのガレットへの挑戦が始まりました。
まずは自社のそば粉で片っ端からガレットを焼きました。「普通に美味しいんですよ。でも何かが違う。なんだろうって考えたら、そば粉の風味が具の味に負けてしまっているんです」。幌加内という日本一のそば生産地で生産者が作るガレットを「美味しい」だけで終わらせるわけにはいかない。そんな思いから、幾度となく試行錯誤を繰り返し、最終的にたどり着いた結論は「今あるそば粉では合わない」ということ。そして「麺として出すそば粉と、ガレットとして出すそば粉は違ってもいい」と、ガレット専用に新たに粉を挽くことを決めました。そこには「そば粉だけで勝負できるガレット粉が欲しい」という、生産地だからこその矜持が滲みます。
完成したのは、口にした瞬間鼻の奥にふんわりとそばの風味が抜けていくそば粉100%のガレット粉です。甘皮を含む殻がついたままの「玄そば」を石臼でじっくりときめ細かに挽き、生地の表面はパリッと中はもちっとした食感に焼けるよう仕上げました。
★ほろかないガレット粉100g270円
「幌加内に足を運んでもらえるのがありがたいから」と幌加内町で購入すると200円になります。
表面はパリッとなかはもっちりした食感。卵とハムとチーズにミートソースをちょっぴりプラスしたスタンダードな食べ方がおすすめ。
「幌加内そばって、北海道では有名だけれど、全国的にはまだまだ知られていません。このガレット粉からでも、幌加内に繋がればいい」と北村さん。
「東京からポッとこの町にやってきて、好きなことをやらせてもらえる。『できるわけない』って言われることもありましたけど、それ以上に支えてくれる人、助けてくれる人に多く出会えました。人に恵まれているんだなと思います」と北村さんは振り返ります。いつでも真剣にまっすぐに取り組む北村さんの姿に心を動かされたところも多いのでしょう。
小さく可憐なそばの花が一面に咲き大地を染める幌加内の夏は、町そのものが大きな白いキャンバスのよう。北村さんを幌加内へと引き寄せた「日本一のそばの里をつくる」という夢は、今もそこに色鮮やかに描き継がれていました。
2019年には朱鞠内湖の湖畔でガレットを焼いて食べる「キャンプ de ガレット」を開催。
手軽なアウトドアメニューとしてガレットをPRしました。
株式会社 北村そば製粉 雨竜郡幌加内町字平和4600番地18 |
★令和3年2月掲載