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ヨガとのコラボや収穫体験など、さまざまなアイデアでローズマリーの魅力を発信する黒木さん。
「こういうのが運命的な出会いというのかな」。
ファームズプラスの代表・黒木由布里さんは、照れたような笑顔でぽつりと呟きました。
それは、大分県出身の黒木さんが東川町の地域おこし協力隊として活動を始めて間もない頃、松家農園ローズマリー畑でのイベントを担当し、オーナーで農主である松家源一さんと出会いました。
「それまではハーブに特別な興味はなかった」という黒木さんでしたが、ローズマリーの爽やかで気品あふれる香りと参加者の生き生きとした様子、そして何より農主さんの生産者としての想いに感銘を受けました。込み上がってきたのは「生産の場と消費者をつなげたい」という強い思い。
祖父と孫ほど歳の離れたふたりを、ローズマリーが結びつけた瞬間でした。
ローズマリーは古代ギリシャやローマの神話にも登場するほど歴史のあるハーブ。抗酸化作用や抗菌作用、血行促進作用など多彩な効能があると言われ、古くから健康と美容に重用されてきました。
地中海沿岸原産のローズマリーは、温暖な気候を好み、北海道という寒冷地での越冬は一般的に難しく、栽培に特化した農家は数少ないとされていました。耐寒性の強い一品種にしぼり、栽培サイクルを確立された農主さんより栽培技術を学びながら、農作業も一緒に行っている黒木さん。「サッカーをしていたので、20kgの土運びもトレーニングです!」と力仕事もすっかり任されているそう。
そんなローズマリー農園は道内で最大規模を誇っており、年間約13000株ほどの生産量だそうです。
国内最大級の20aのローズマリー畑。風に乗って爽やかな香りが漂います。
ローズマリーの加工品を手がける中で、農主さんと発酵の専門家の企画により、「ローズマリービネガー」が誕生しました。ローズマリーは抗菌力が高いため、お酢としての発酵に合わせることが難しいとされていましたが、専門家による特殊な製法で発酵の過程で原料を漬け込み、香り付けを行うことに成功しました。
主力商品のローズマリービネガーに加え、赤ワインを製造する際の残渣(ぶどう皮)を活用した赤ぶどうビネガーを商品化。今後も食品加工の工程で生じた残渣や野菜の規格外品を原料にさまざまな種類のビネガーを商品化する予定です。
「北海道は、お酢の文化があまりない」という黒木さん。「だからこそ普段の暮らしのなかで、どうローズマリービネガーを使うのかを発信していきたい。この香りを全国の食卓に届けたいんです」と、イベントでのドリンク提供やレシピ配布など、普及と販路拡大に力を入れています。
黒木さんが勧めるのはローズマリービネガーのサイダー割り。炭酸の清涼感がローズマリーのすっきりと爽やかな香りを引き立てます。お酢を飲む習慣がなかった人からも「これはおいしい!」と好評です。他にも、マヨネーズやドレッシングに小さじ1杯加えることで、普段と一味違う香りを味わえます。
左:ローズマリービネガーの炭酸割り。爽やかな味わいはスポーツのあとやお風呂上がりに最適
右:「ローズマリービネガー×赤ぶどうビネガー」と「ローズマリービネガー」
北海道産ローズマリーに覚悟を決めた黒木さんは、3年間ある地域おこし協力隊の任期を1年半で早々に切り上げました。
"生産者さんの思いと、北の香りをお届けし、生活に豊かさをプラスする”そのかけがえのない想いから、屋号を「Farms-plus(ファームズ プラス)」とし、2023年に自身の会社を立ち上げたのです。
「びっくりするくらい思い切りが良いんだよ。これはもうビジネスとして成り立つようにするまではなんとか役割を果たしていかなきゃ」と目を細める農主さんに、「松家さんじゃなかったら起業しようとは思わなかった」と黒木さんが応えます。交わす言葉は多くないふたりですが、互いへのあたたかい視線から、確かな信頼が伝わってきました。
50年を超える農業経験をもつ松家さんの背中から、黒木さんは生産者としての生き方を学びます。
今、黒木さんは、さまざまなイベントに出展したり農園体験を行ったりと普及に力を入れています。
道内の食に関する事業者とのコラボ商品の開発にも取り組んでいます。
「北海道産ローズマリーの香り文化を根付かせる第一歩にしたい」。黒木さんが見つめているのは、ローズマリーの未来。「富良野のラベンダー、北見のハッカという道内屈指のハーブ産地に、東川のローズマリーを並ばせたい」。農主さんが耕したローズマリー畑は、大きな夢を咲かせていました。
50年を超える農業経験を基に、東川に新しい可能性を拓いた熟練農業家と、柔軟な発想と行動力でアイデアを形に変えていく若い起業家のふたり。ローズマリーの香りがふたりを次のステージへと導いているようでした。
Farms-plus ファームズプラス |
★令和6年3月掲載