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規格外にんじんから生まれた「雪の下にんじんしぼり」を手に微笑む守屋大輔さん。
「小さいころは、キャベツとレタスの違いもわからなかった」と笑うのは、守屋農園の代表・守屋大輔さん。両親はもちろん親戚にも農業者がいない守屋さんが、農業という未知の世界に飛び込んだのは23歳の時。就職氷河期のために目指していたスポーツインストラクターの道を諦めたものの、会社勤めが性に合わず「全然知らない世界で働いてみよう」と農業法人の門を叩いたのが最初でした。そこで自然とともに働くことに魅せられ、新規就農相談会に参加。「全然何も知らないので、『このくらいの面積で、このくらいの資金を借りて、この作物をつくれば、5年くらいで返せます』というのをそっくりそのまま真に受けて『ならいけるんじゃないか』って」と研修を経て、当時旭川では最年少となる26歳で新規就農を果たしました。
「実際は5年でなんか全然返せるものじゃなかった。ちょっと騙された感ありますよね」と冗談っぽく笑う表情に後悔の光は見えません。「来年はこうやってみよう、これがダメならこっちにチャレンジしてみようって、その積み重ね。少しずつ自分の技術や知識が向上して、ここ最近ようやく、やって良かったと思えるようになってきました」。飽くなき探究心が、26歳の青年を農業人へと育てあげたのです。
26歳という若さで新規就農した守屋さん。農業のことは全く知らなかったのだそう。
北海道の農業は春から秋が中心。冬になると多くの農業従事者は農業から一旦離れ、アルバイトを始めるのが通例です。「でも…」と守屋さん。「プロ野球選手は、オフには次のシーズンに向けて野球をする。プロの農家だって冬に農業を離れるんじゃなくやり続ければいいんじゃないか」。
その想いを叶えるために守屋さんが注目したのは、冬季無加温ハウスでの寒締めほうれん草と雪の下にんじんの栽培。それは、冬の寒さと雪が美味しさを引き出す北海道らしさを活かした農業の姿でした。
道内でのモデルケースがないなか、手探りで定植のタイミングを探りあて、ドカ雪によるハウス倒壊のリスク、雪と土でぬかるむ畑での収穫作業など山積みの課題に「失敗はたくさんしています。でも失敗したならそこを改善すれば良いだけ」と、持ち前の探究心で挑み、えぐみが少なく甘みが強い寒締めほうれん草、高い糖度と栄養価を持つ雪の下にんじんを育て上げました。
左/ほうれん草の無加温ビニールハウス。収穫の朝は土のために暖房を使うそう。
右/寒さにさらされたほうれん草は凍らないよう自ら水分を抜いていくため味わいが凝縮されます。
左/雪の下にんじんの収穫風景。専用の機械がないため既存のものを工夫して使います。
右/シェフワングランプリ初代王者の下國伸シェフ(左)と守屋さん。雪の下にんじんの味わいはシェフお墨付きです。
寒さにさらされた野菜は、自ら水分を手放し糖度を蓄えて凍結から身を守ります。そのため甘さ、栄養素、香りがぎゅっと凝縮され、ほかでは味わうことのできない濃く深い味わいを生み出します。そんな冬季野菜の副産物が「雪の下にんじんしぼり」。守屋農園の雪の下にんじんにpH調整のためのレモン果汁だけを加えた、にんじんの甘みを存分に味わえるジュースです。
「スーパーに並ぶにんじんは、いわゆる『美人さん』。その裏には廃棄されるものがたくさんある。でも、彼らをただ捨ててしまうのは申し訳なくて、なんとか活かしてあげたかった」と、製品化の経緯を語る守屋さん。規格外品を、慈しみを込めて「彼ら」と呼ぶ姿に注いできた想いの深さが滲みます。
2024年には、士別市で生産された生姜の規格外品と雪の下にんじんを使った新商品を予定。シリーズ化も視野に入れ、さらなる展開を目指しています。
「食品ロス削減の分野でSDGs認証を取れないかと思っていて、最終的には海外にも出品できれば」と想いは広がります。
規格外品をなんとか活かしたいとの思いから生まれたジュース「雪の下にんじんしぼり」。
守屋さんは「いろんな人に働きやすく」との思いから、農園にバリアフリートイレを設置し、障がい者にも農作業の門戸を広げています。そんな守屋さんが、研修時代から描いていたビジョンが、飲食店の経営。目指すのは、障がい者が働けて機能改善にもつながるよう、誰もが気軽に足を運べるお店です。そこではきっと、障がい者と力を合わせて育てた作物が提供され、あちこちで美味しい笑顔が咲き誇ることでしょう。
若い頃に目指したのは身体の機能改善をはかるインストラクター。誰もが自信や生きがいを持って暮らせる社会への想いは、北海道の冬に新しい農業の可能性を見い出し、農福連携の夢に向かって守屋さんの挑戦はこれからも続いていきます。
夢は「飲食店」。守屋さんが手がけた農産品はもちろん地域の美味しいものを提供する店を目指します。
守屋農園/ 旭川市東旭川町日ノ出284 |
★令和7年2月掲載