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大川夫妻(右)と薮夫妻(左)。農園では4人が4様の役割を担います。

大川聖之さんが農業を志すきっかけとなったのは、異業種交流会で農業系のIT機械を目にしたこと。IT企業勤務の大川さんにとって、その機械は「自分たちがシステム設計している医療機器とは全然違って、もうちょっと単純」だったと言います。浮かんできたのは「自分でもできそうだな」という思い。もともと埼玉県で家庭菜園を楽しんでいたこともあり、退職後には移住してちょっとした作物をつくってみようか、と考えていた大川さん。その農業への興味が「どうせなら子どもが小さいうちに」と現実味を帯び始めました。「その時は苦労とか全然考えずに、単純に『楽しそうだな』って。それに移住って言ってももっと雪の少ないところが良いんじゃないかなと思ってた」という大川さんの背中を押したのが妻・尚さんの「どうせやるなら、北海道らしい自然豊かな場所でやってみない?」という一言。ITエンジニアから農業への転身でした。
一方、共同経営者の薮広大さんは「自分は何が好きなんだろうっていろんな仕事を試していく中で、一番楽しかったのが畑の仕事をしているときだった」と振り返ります。特にニンニク栽培に強く惹かれ、北海道で唯一ニンニク栽培で研修ができる士別市朝日町へ向かいました。そこで出会ったのが、同じく農業研修生として朝日町に移住してきた大川さんだったのです。
農業の法人化や小規模農園で収益を上げるなど、出会って間もないふたりの間には農業への共通の方向性がありました。けれど、それ以上に「本当に気が合ったとしか言いようがないんですよね」と口を揃えます。「最初からビジネスプランがすべて一緒だったわけではないんですよ。けど、根本的な考え方はすごく似てて、話していて『そうだよね、そうだよね』と共感できるところがたくさんあった」というふたり。大川さんのITの専門知識と薮さんの農業への情熱が重なり合い、2023年2月「やぶかわ農園」は産声を上げたのです。

「なぜか気が合った」という薮さん(左)と大川さん(右)。ふたりの間には笑顔が絶えません。

やぶかわ農園の取り組みは、単に作物を育てて出荷するだけにとどまりません。目指すのは生産から加工、販売までを一貫して手掛ける「6次産業化」。その中でも加工品に力を注ぐ背景には、北海道特有の課題がありました。冬場の閑散期がある北海道。「僕らは1年中農業をやっていきたい」という大川さんにとって、加工は「年中自分たちの野菜、ブランドとして、商品を出せるっていう仕組みができる」という点で欠かせない要素でした。さらに「見た目とかも気にしなくていいので、フードロスといった課題解決の一つにもなる。人と自然に優しい農業という僕らの目標のためにも有効だと思っています」と大川さんは語ります。
こうして生まれたのが「にんにく香るサラダピクルス」と「にんにく香るトマトソース」。主役は北海道在来種の「エゾニンニク」、通称・ピンクニンニクです。一般的なホワイト系ニンニクとは異なり、皮をむくと鮮やかなピンク色が現れます。薮さんはその魅力について「成分が非常に高く、生で食べると辛みが強いんですが、火を通すと驚くほど甘くなるのが特徴なんです」と熱を込めます。かつては北海道で広く栽培された品種ですが、栽培の手間から生産者が減少。市場に出回ることも少ない“幻のニンニク”を、譲り受けたわずか100粒程度から増やし始めました。「毎年、少しずつ増えていく畑を見てはその成長に心を躍らせていました」と、地道な努力が実を結んだ喜びを大川さんは語ります。
加工品開発は試行錯誤の連続でした。「最初に作ったやつはとんでもないことになって、瓶を開けようとしたら炭酸みたいに『チュー』ってなるんですよ」という発酵失敗談も。「僕らは全くの素人だったので、レシピ作りから賞味期限の根拠確立まで、壁にぶつかるたびに周囲の協力やアドバイスをいただきながら乗り越えてきました」と大川さん。2年間の開発期間を経て出来上がったピクルスは、黒酢生産が盛んな鹿児島県の企業がこのピクルスのために特別に調合した酢をベースに彩り豊かなパプリカとともに瓶詰め。サラダとしてはもちろん、どさんこプラザ札幌店のイートインコーナーではおつまみとして大好評です。トマトソースも、赤、黄、緑と3種類の異なる品種のミニトマトを使い分け、濃厚な赤は煮込み料理に、爽やかな緑は冷製パスタに、とそれぞれの個性を活かした提案が消費者の心を掴んでいます。

わずか100粒から増やしたというピンクニンニク。乾燥作業は今も試行錯誤中と言います。

やぶかわ農園の大きな特徴の一つが、IT技術の積極的な活用です。大川さんが考案し、自作したのが「ビニールハウス自動室温管理システム」。市販品なら1台あたり60万円〜70万円というこの機械を、大川さんは通信販売で購入できる汎用部品を組み合わせ、わずか4万円程度で作り上げました。「一番の動機は『なるべく楽したい』という本音」と大川さんは笑います。
ハウスの温度が設定値を上回れば自動で巻き上げ「窓」が開き、寒くなれば閉じる。水やりもスマートフォンから制御できるため、早朝からハウスに行くことなく自動で作業が完了します。「朝7〜8時に来ても、夕方5時に帰宅できる。安心してハウスを任せられるんです」という大川さん。今年は大川さん薮さんともに家族揃って子どもの運動会を見学できたと言い、「これは、ある意味プライスレスな時間の創出だと思っています」と胸を張ります。
「『朝が早くて休みがない』という農業のイメージを変えたい。ITを活用すれば、小さな面積でも持続可能な農業ビジネスが実現できることを証明したいんです」。大川さんは、自身が開発した自動管理システムを地域の農家とも共有し、地域農業のIT化も目指しています。それは、やぶかわ農園単体で大きくなるためではなく、「オープンソースみたいに仲間が増えてくれた方が、この街も活性化する」という強い思いの表れでもありました。

左)大川さん手作りの自動室温管理システム 右)機械化が進んでも細かなメンテナンスのための手作業はなくなりません。

「究極の『本当にうまい』は味だけではないですよね。誰と、どんな時に食べるか、その『楽しさ』こそが最も大切なんです」と大川さん。それは、ふたりが掲げる農園のテーマ「野菜サーカス」に込められた想いと深く結びついています。「今、約30種類くらいの野菜を作っているんですが、トマトひとつにしても味も違えば色も違うし、ニンニクにも個性がある。そういう野菜の個性をどう表現するか」。まるでサーカスの演者たちが個性豊かに舞台を彩るように、食卓に「楽しさ」を届け、笑顔と会話を生み出す「エンターテイメント」であることを目指しているのです。
ふたりの挑戦は新たな商品を生み出し続けています。士別市で生産される濃い甘みと濃厚さが特徴の希少な大粒の茶豆である栄養豊富な「つくも4号の大豆のピクルス」や、収穫時期が短く希少な「ニンニクの芽・つぼみピクルス」など、地域の食材の可能性を最大限に引き出しています。さらには、北海道では珍しい「畑での米栽培」や甘みが増す「越冬ネギ」など、実験的な栽培にも意欲的です。「食べたいものやこんな加工品ができたたら面白いとか、そういう遊び心からすべてが始まっているんですよね」と次々と生まれるアイデアを薮さんは楽しそうに振り返ります。
IT技術と農業の融合、そして何よりも食卓に「楽しい」を届けたいというふたりの情熱が、やぶかわ農園の「うまいもの」を生み出す原動力。士別市朝日町の小さな農園から、「野菜サーカス」の幕が上がり、食卓に驚きと感動、そして笑顔を広げていくことでしょう。

食卓ににぎわいとワクワクをもたらす「にんにく香るサラダピクルス」と「にんにく香るトマトソース」のラインアップ。
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合同会社 やぶかわ農園 士別市朝日町中央4054 電話/0165-26-7472 |
★令和8年2月掲載





